2025年12月号 アメリカの遺族年金に対する日本の相続税課税


(遺族年金なのに相続税は課税で、所得税は非課税の不可思議。

裁判も行われているが、評価方法自体も海外の年金にはフィットしないかも。)

2025年 12月                       

  先日のHTIというハワイの国際相続の研修で、今回のテーマの「アメリカの遺族年金に対する相続税課税」の話題がでてきました。私もたまたま実務ででてきたことがあったため知っていた論点だったのですが、実務でやった当時は、「これは・・。特殊すぎてなかなか知り合いの税理士でも聞く人がいないな…」と思い、しょうがないので自分でゴリゴリ調べて何とか解決していました。ところが、HTIではこの論点について、知らない先生ももちろん多いようですが当たり前のように知っている先生も数人いらっしゃり「さすが!国際相続ガチ勢は違いますな~。」とレベルの高さに感心しました。一方、現状の取り扱いが理解できたとしても、やはり納税者の方にとっては厳しい点もあり、かつ、今後議論が期待される論点でもありますので、今回は当該テーマについて解説します。

①アメリカの遺族年金 契約に基づかない定期金に関する権利で相続税課税 めちゃくちゃ高くなる場合も

まず、日本の遺族年金は相続税非課税となっています。ところが、外国の遺族年金については課税となっており、「契約に基づかない定期金に関する権利」」として相続税が課税されることになっています。いわば、外国の公的な遺族年金であるにも関わらず、民間の年金保険的に評価がされてしまい、アメリカの場合などはべらぼうに高い評価額になってしまう場合があるようです。そのため、納税者の方も、「なんでこんなことに?本当に正しいの?」といった反応になってしまうのも仕方がないことかと思います。

②所得税 受け取った遺族年金は非課税 なんで相続税はダメなの?

一方、所得税については、ちゃんと非課税と明記してくれています。(所得税法施行令82条の2第2項1号、同令72条3項9号)そうすると、納税者としては「なんでやねん!相続税の方がおかしいんちゃうんか!」となるのは当然で、実際、国を訴えて裁判にもなっています。

③なにが問題か? 

1.割と整備されている国際間(とくに日米)の相互救済がなぜかない

2.日本の民間の年金保険よろしく評価をあてはめるととんでもない高額になってしまう場合がある

 こちら、なにが問題なのでしょうか。

 1.まず、一点目は、税法では通常各国によっていろんな制度があるのはわかったうえで、国際間の様々な交流の阻害を防ぐ観点から、外国の似たような制度については税法上救済措置が設けられている場合が多くなっています。実際、所得税については外国の遺族年金についても、日本の遺族年金同様非課税としてくれています。ところが、なぜか相続税は公的遺族年金でも民間の年金のような扱いになっているので、「救いがないじゃないか!なにか悪いことしたのか!日本の代わりにアメリカで年金を払っていただけじゃないか!アメリカは日本の同盟国じゃないのか?」となるという点です。

 2.二点目は、アメリカのように遺族年金が高額になる場合、日本の評価額の算式にあてはめるととんでもなく高額になってしまう場合があるという点です。算式が想定しているのは「日本の公的年金じゃないもの」なのでしょうが、遺族年金受取人が若い場合など、計算上とんでもない評価額になり、納税資金すらないということが生じてしまうようです。

ここを容赦なく課税にしたままにすると、外国人富裕層や海外在住者の方は日本の相続税をおそれて日本を敬遠してしまう気がします。HTIに参加した際も、夜の食事会でアメリカ人の参加者の方から話しかけられて「実はクライアントが日本の相続税で悩んでいる」と相談をされましたので、「日本の相続税はリスク」というのは外国人富裕層や専門家に浸透してしまっているようにも感じます。日本の国税当局や政府がどういう方向にもっていきたいのか、このまま現行の取り扱いが続くのか裁判の結果も含めて注目されますね。