2024年6月号 中国PE課税の理論と実務、対応策


 中国においてPE課税は非常に厳しく行われていると聞きました。PE課税は日本にもあり、国際的な課税概念だと思うのですが、中国のPEは日本のものとどう違うのでしょうか?また、中国現地法人へ出向している駐在員にもPE課税があると聞きましたが、現在でも駐在員がPE課税を受けるリスクがあるのでしょうか?なんとなく理不尽な課税のイメージがありますが、日本企業側で予測や対策をすることは可能なのでしょうか?

 仰る通りPEは国際的な課税概念ですが、固定的な場所をもってPE課税を行うタイプの租税条約と異なり、日中租税条約では役務提供PEも規定されているため、固定的な場所がなくてもPE課税がなされることになり、仰る「厳しく行われている」という感覚をお持ちになるのだと思います。ゆえに、実務的に中国の役務提供PEに対する課税姿勢は日本よりも強いという点が日本とは異なる点と言えるかもしれません。ただ、これは必ずしも理不尽なものではなく、日中租税条約の役務提供PEの規定及び中国国内法に基づく課税をしているだけであり、日本側はそれほど厳しく運用をしていないとみることもできます。

また、確かに以前は日本から中国への出向者(駐在員)がPEに該当するのではないかという問題が一部地域で少しの間だけありました。こちらは確かに日本の税務の発想からすると理解がしづらい解釈でしたが、現在ではそういった課税は実務的には行われることはほぼなくなったようです。ゆえに、現在では中国のPE課税も規定と、一定の合理性に基づき行われていますので、予測と対策が可能な課税ではないかと考えています。

解説

 PE課税は日本側の税務ではそれほど一般的ではありませんし、また、日本の課税庁が納税者から申告されていないPEについて、積極的に補足してPE認定をしている事例もそれほど多くはないようです。ゆえに、日本側の専門家ではイメージしづらい点もあるかと思いますので、中国側の根拠を確認して、実務とその対応策について述べたいと思います。

1.PE課税の根拠と課税関係

①PEの原則説明

 PE(Permanent Establishment:恒久的施設)とは中国に現地法人・駐在員事務所を有していない外国企業などが、出張などで中国にて事業を行う場合、登記上の現地法人・駐在員事務所がなくても、法人などとみなして事業体としての課税をおこなうという、租税条約・国内税法により定められている課税上の概念をさします。

②根拠規定

上記は規定にも明記されており、以下の通りとなっています。

日中租税条約第5条(一部意訳)

日本の企業が中国国内において使用人その他の職員を通じてコンサルタントの役務を提供する場合には、このような活動が単一のプロジェクトまたは複数の関連プロジェクトについて12箇月の間に6箇月を超える期間行なわれるときに限り、当該日本の企業は、中国国内に「恒久的施設」を有するものとされる。

企業所得税法 第3条

外国法人が中国国内に機構・拠点を設けている場合には、その機構・拠点が獲得した中国国内源泉所得、及び国外で発生したがその機構・拠点と実質的な関係のある所得に対して企業所得税を納付しなければならない。

③PE課税が行われた場合の課税関係

 上記の規定を根拠に、実際に中国でPE課税が行われたときの課税関係は一般的には以下の通りとなります。

1.企業所得税・増値税

  帳簿による実績数値、もしくは税務局が経費などからみなし利益率等により総収入・推定利益を算出し、当該収入・推定利益に基づき、企業所得税25%及び増値税が課税されることとなります。

2.個人所得税

  PE認定がされた場合、当該PEの関連者には日中租税条約の短期滞在者免税の適用がなくなり、日本本社負担の給与であっても中国国内負担給与として個人所得税が課税されます。

  

2.プロジェクトの登記(非居住者による中国国内請負工事・役務提供の登記)義務

  国家税務局令2009年第19号

 また、上記のPEの原則のほか、2009年より開始された国家税務総局による非居住者の課税強化の方針から、非居住者が中国内で行う建築・コンサルティング等の請負契約を締結した場合、契約書の締結日から30日以内に管轄税務局への登記が法律上は義務づけられています。これで、中国国内での役務提供を把握しておき、役務期間が6ケ月以上(実務公告により、6カ月を183日と読み替えることとされています)となる場合はPE課税が生じるというものです。ただし、当該規定が実務上どこまで機能しているかは地域差もありますので、現地専門家に相談をするのが有効であると考えます。

3.PE課税の結論と必要なアクション

①理論的取り扱い まとめ

 上記規定の通り、出張者が実施するプロジェクトについても、理論上はPEの要件(プロジェクト期間合計が6ケ月を超過する等)に該当した場合は、PE課税がなされます。プロジェクトのために中国へ滞在し期間(契約書単位ではなく、複数契約を同一プロジェクトとみなされる場合もあります)が6ケ月を超過する場合、理論上はPEに該当します。また、契約を締結した時点で、税務局へ登記する義務があります。

②必要なアクション 自己申告と納税

 ゆえに、PE認定は現実的には税務局からは判明しにくいという面はあるものの、税法上は自己申告して納税する必要があるという結論になります。 実際のアクションとしては、契約書を税務局へ持参し、税務局と相談して登記、自己申告を行うことになるかと思います。また、PEに該当した結果、短期滞在者免税の適用がなくなる短期出張者については個人所得税を納税します。

 

4.考えられる対応策 スキームを変更する 中国子会社への出向

 ひとつ、面白い対応策して考えられるのは、PE登記や納税などが煩雑かつ、どちらにせよ日本からの出張者の個人所得税納税が生じ、ビザも取らなければいけないということであれば、出張者を役務提供のプロジェクトの受け手側の法人に出向させてしまい、現地駐在員として業務を行うという方法が考えられます。この方法ですと、給与や現地実費などを現地法人に負担させれば日本法人に対価を支払う必要がなく、日本法人のPE登記や納税などの煩雑な問題も生じず、場合によっては税負担も少なくなります。役務提供の受け手側が第三者の中国企業等である場合、うまくあてはまらない場合もあると思いますが、役務提供の受け手が日本法人の中国子会社といった場合には検討に値する方法であると考えています。

 

プラスアルファ 短期滞在者免税とPE 期間の数え方の違い 暦年か年をまたぐか?  

中国滞在中の日本親会社社員関係の滞在期間のカウントには、①短期滞在者免税の要件の183日の期間、②中国国内法の居住者の183日の期間、③PE該当の6カ月の期間(しかも公告で183日に読み替え)と3種類でてきます。似たような期間であるため混同しそうになりますが、数え方などは異なる部分がありますので、注意する必要があります。具体的には、①、②は暦年で183日をカウントしますが、③の6カ月については、暦年は関係なく、年をまたいでもプロジェクトが6カ月以上の期間であればPEに該当するというカウント方法になります。(日本と別の国との租税条約では①、②のカウントを、暦年関係なく行うタイプのものもありますので、余計に間違えそうになります。)なお、プロジェクトが6カ月を超える場合に、「いや、このプロジェクトはAプロジェクトは4カ月、Bプロジェクトは3カ月で別プロジェクトなのです。ゆえに、PEには該当しません!」という伝統的な言い訳はだめですか?という質問をよく頂戴しますが、これは当局からの通知で通用しないと明確にされています