(非課税はどの時点までか?誰の所得か?譲渡の際の取得価額は被相続人の取得価額でなく相続発生時の時価に)
2025年 4月
最近、NISA口座がかなり普及しているとのことですが、先日初めて被相続人がNISA口座で財産をお持ちのケースの相続税の申告をいたしました。NISAは譲渡、配当の非課税が特徴の口座ですので、相続税評価額も他の財産とは異なる点がありましてなかなかややこしかったのですが、一方、かなり理論的に整理されているなとも感じましたので、今月はそちらについて解説します。
①NISA口座相続の場合の大きな考え方 被相続人所有時はとにかく非課税、その後はとにかく課税
NISA口座相続の場合の税務の大きな考え方は、「被相続人が所有している時(生前)はとにかく非課税、その後(死亡後)はとにかく課税」というものです。具体的にいうと、所得税は配当、譲渡ともに被相続人生前の分は当然非課税ですが、相続発生後は相続人の財産として課税になります。これは、証券会社での相続手続きが遅れて、非課税扱いのまま源泉徴収されていなくても死亡後の分は遡って課税されることになっています。また、キャピタルゲイン課税(譲渡所得)も被相続人の生前部分は課税されませんので、相続人が相続したNISA口座の資産は、通常の資産であれば被相続人の取得価額を引き継ぐところ、NISA口座は相続時の時価を引き継ぐこととされており、ややこしいですがかなり理論的には正しいと思える制度設計となっています。詳細は以下の通りです。
②NISA口座所有の上場有価証券の配当期待権、未収配当金
上場有価証券の配当については、配当期待権や未収配当金がある場合、通常の証券口座の場合は源泉所得税部分を控除して評価します。ところがNISA口座の場合は、生前はご存知の通り非課税ですので配当からの源泉所得税控除はありません。ゆえに、相続税評価上も源泉所得税を控除しなくてよいのかと思いきや、NISA口座の非課税が有効なのは生前のみであって死亡後は効力がなく、相続発生後の配当金について間違って控除されていない場合(死亡の情報が証券会社に伝わっていない場合など)は後からさかのぼって課税されるため、源泉所得税分を控除して評価する必要があります。これは死亡後の配当所得は被相続人の所得ではなく、相続人の所得であると整理すると理解しやすいかと思います。
③NISA口座から相続した資産を譲渡した場合の取得価額
また、NISA口座の相続において、相続発生時点までの含み益(時価が購入時よりも高い場合のその差額)は非課税となりますので、被相続人の取得価額ではなく、相続時の時価を取得価額とすることになっています。これも譲渡所得自体は相続人の所得であり、かつ、被相続人が取得してから死亡するまでの譲渡所得はNISAという特別な制度で課税しないこととしているため、譲渡所得は相続人の相続後のキャピタルゲインのみに課税すればよいという考え方と解釈すると理解しやすいかと思います。
④おまけ 相続税の電子申告 相続人全員の申告になっているかは要注意
なお、今回の相続税の申告で、税務署がグイグイすすめる相続税の電子申告をやってみました。添付資料なども明確にされていますので(実はそれほど多くありません)、慣れたら便利だろうなと感じる一方、怖いのが相続人全員の申告をまとめて行う場合です。書面申告なら印をもらって全員の名前が書いてある申告書を税務署に提出しますので一目瞭然で全員が申告したことがわかるのですが、電子の場合申告者全員の利用者識別番号を入力して(ない場合は新たに登録しなければなりません。相続人といっても当然ながら普段確定申告をしている方ばかりではありませんので、若干面倒です。また、昔登録したような気がするけど、忘れたとかいう方もやはりいらっしゃいます。)、相続人代表の指定などを行わないと全員が申告したことにならないという点です。これは忘れてしまうと怖いなと思いました。