2025年10月号 法人の前払金、前受金の期末・損益振替時外貨換算と個人の為替差益


(会計と税務で損益振替時の原則、容認が逆。個人の為替差益所得課税は怖い。お金はもうないよ。)

2025年 10月                     

  法人の記帳で、前払金、前受金が外貨ででてきた際、「期末換算や損益への振替の際の換算って法人税法ではどうなっていたのかな?」と迷うことがあり、調べてみると会計と税務の原則、容認が逆だということがわかりました。(実務的には、税務では容認を使うのが通常であるため、会計と差異が生じないことが多いようですが)

また、個人で外貨建資産を持っている場合、所得税法では恐怖の「為替差益の所得計上」という論点がありますが、その辺も調べてみると、怖いケースがあることもわかりましたので、今回はその辺りの外貨換算のお話について解説します。

①前渡金、前受金の外貨換算→日本円での入出金額が確定しているため、換算不要

法人税法において、ザックリいうと外貨建ての流動資産、流動負債の法定期末換算方法は、期末時換算法ですが、下記の通り

法人税基本通達13-2-2-1で

第2節 外貨建資産等の換算等|国税庁

外貨建取引に関して支払った前渡金又は収受した前受金で資産の売買代金に充てられるものは、外貨建債権債務に含まれない。

前渡金、前受金は外貨建債権、債務は除かれることとなっており、期末換算は不要となっています。この点は会計と税務に相違はありません。考え方としては日本円での金額はすでに確定しており、当該部分についてはレートが変わろうが日本円での入出金額は変わらないからと考えるとわかりやすいかと思います。

②前渡金、前受金の損益への振替時のレート換算 税務と会計の原則、容認が逆 (どっちにしろ最終損益は同じですが・・)

次に、私が疑問に思ったのは、「洗替していない前渡金、前受金が損益に振り替わった場合、損益の換算レートはどうなるのだろう?(最終結果は同じだけど)」という点です。これが面白いのが、会計と税務で原則が逆になっていました。

法人税基本通達13の2-1-5

第1節 外貨建取引に係る会計処理等|国税庁

(前渡金等の振替え)

13の2-1-5 13の2-1-2により円換算を行う場合において、その取引に関して受け入れた前受金又は支払った前渡金があるときは、当該前受金又は前渡金に係る部分については、13の2-1-2にかかわらず、当該前受金又は前渡金の帳簿価額をもって収益又は費用の額とし、改めてその収益又は費用の計上日における為替相場による円換算を行わないことができるものとする。(平12年課法2-7「十九」により追加)

 上記の通り、税務は原則は計上日レートですが、帳簿価額レートのままでも良いよとなっています。実務的にはこちらの容認による帳簿価額を使うケースがほとんどのようですが、税務の考え方としては「原則は発生日レート、でも前渡金、前受金は洗替していないし、最後は同じだから帳簿価額でも良いよ」というのは、税務の理屈としてはしっくりきます。

③個人の外貨差損益の所得計上 外貨→建物 見逃すとヤバくないですか?お金はもうないですよ。

お話しは変わって個人のお話しです。個人も為替差益計上の概念があり、これは事業をやっていなくてもかかりますし、証券口座で精算されるものばかりでもありませんので、非常に怖い論点です。こちらも調べていると怖い国税庁のQAがありました。

下記の通り、

預け入れていた外貨建預貯金を払い出して貸付用の建物を購入した場合の為替差損益の取扱い|国税庁

外貨建の預金をもって貸付用の建物を外貨建取引により購入した場合には、新たな経済的価値(その購入時点における評価額)を持った資産が外部から流入したことにより、それまでは評価差額にすぎなかった為替差損益に相当するものが所得税法第36条《収入金額》の収入すべき金額として実現したものと考えられますので、当該建物の購入価額の円換算額とその購入に充てた外国通貨を取得した時の為替レートにより円換算した金額との差額(為替差損益)を所得として認識する必要があります。

となっています。つまり、昔から持っていた米ドル預金をもって、海外の不動産を購入した場合は、「現物に変わったので為替差益を認識して、所得として所得税を払いなさい」というわけです。これが辛いのは、お金の流れとしては、「米ドル→建物」なので、外貨はそのまま建物に変わってしまっているため、税金のことを考えずに買ってしまった場合お金がもうないという点です。かなり意識しにくいポイントですが、やってしまった後に指摘されるとすでにお金が建物に変わってしまっていますので、相当怖い論点だなと思います。