2024年11月号 激ムズ!居住用賃貸建物など不動産関係の消費税


(居住用建物の購入は用途に関わらずアウトだと勘違いしている方もいるのでは)

2024年 11月                      

 消費税法では、建物を購入する場合に、かってできた「自動販売機作戦」封じのため、居住用賃貸建物の仕入れ税額控除には一定の制限が設けられています。ただ、居住用賃貸建物に該当しない場合の定義の詳細が、「全てが店舗用」などと非常に激烈な文言で書かれているため、ネット等をみていると取り扱いに一部混乱も見られるようです。また、意外にも社宅利用のための取得でも従業員から使用料を徴収していない場合は、仕入税額控除が認められています。また他にも、不動産絡みの消費税では、「いや〜、ややこしすぎる」とまいってしまう論点が結構ありますので、今月はそんな不動産絡みの消費税のうち、私が激ムズだなあと思うポイントについて解説します。

1.自動販売機作戦封じのための居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限

→居住用建物を買ったら全て仕入税額控除不可!ではない

かつての過度な節税策「自動販売機作戦」封じのために導入されたという居住用賃貸建物の仕入税額控除制限ですが、該当するか否かの判断基準として「全てが店舗用などなら該当しない」など、激烈な文言が書かれているため、一部の方は「実際の用途が事業用であっても、居住用建物(居住用分譲マンションなど)を購入してしまったら仕入税額控除ができない」と誤解している方もいらっしゃるようです。しかし、これは用途が賃貸をする場合の判断基準ですので、そもそも自社の事務所使用が実際の用途で、居住用分譲マンションを購入した場合などは、要件を満たしていれば仕入税額控除が可能と考えます。

2.社宅も無償貸付なら仕入税額控除ができる。いわんや事業用をや!でも「おきて破りの無償貸付」をやっている人いるの?

 また、上記に関連する面白い国税庁のQAがあります。

社宅に係る仕入税額控除|国税庁

 こちら、社宅の取得に関する仕入税額控除の取り扱いを解説してくれているのですが、従業員から賃料を徴収する場合は、当然居住用賃貸建物であるため仕入税額控除不可となっていますが、無償で貸し付ける場合下記の通り、

「なお、従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けることがその取得の時点で客観的に明らかな社宅や従業員寮は居住用賃貸建物に該当しないことから、その取得費は仕入税額控除の対象となります。この場合の個別対応方式による課税仕入れ等の区分は、原則として課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当します。」

と、なんと共通対応での仕入税額控除が可能となっています。ただ、税務的には無償貸与は従業員に対する現物給与に該当するためやらないのがセオリーですが、場合によっては現物給与課税を受けたとしても無償貸付にして仕入税額控除を受けた方が得というケースが有り得るのではと考えました。ただ、税理士的には現物給与課税があるため「おきて破り」感のある無償貸付ですので、そこまでやっている企業があるのかな?という気もします。戦略的にやってらっしゃる方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ご指導、情報交換をさせていただければ幸いです。

3.激ムズ たまたま土地の譲渡があった場合の承認申請(前期、前々期がない場合)、土地建物一括譲渡の仲介手数料、適格請求書発行事業者登録による期中の課税事業者への変身と控除(還付)

 そのほかの不動産絡みの消費税で私が激ムズだと感じるポイントを御紹介します。

たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認申請(前期、前々期がない場合)

たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認|国税庁

 土地を譲渡すると課税売上割合が大きく変わり、納税額が激増することに対する救済措置が上記の承認手続ですが、譲渡した課税期間中に提出する必要があり、なかなか神経がすり減る制度です。また、ただでさえ悩むのに大変なのは、承認には原則として「前期、前々期の課税売上割合」が必要だという点で、「設立2期目など、ない場合はダメなのか?」という疑問があります。ただ、以前、課税当局から絶対だめというわけではないので、申請があればこちらで検討すると回答を受けたことがありましたが、「いや、でも審査に数か月かかって結局ダメだったらどうするのよ?」となかなか悩ましい思いをしました。

土地建物一括譲渡の仲介手数料→合理的区分による按分の場合建物部分は課税対応可

 こちらも国税庁のQAです。

土地付建物の仲介手数料の仕入税額控除|国税庁

 課税売上割合95%未満の場合、課税対応、非課税対応、共通対応を分けていく必要がありますが、土地建物の仲介手数料の建物相当部分は共通対応にしなければいけないのかな?と迷ってしまいますが、これは合理的区分による按分がされている場合、課税対応でOKとされています。ただ、他の費用の容赦ない共通対応への振り分け(按分できるやん!と思えるものもあります)とのバランスを考えると、個人的には理屈としてはそこまでしっくりはきません。

適格請求書発行事業者登録による期中の課税事業者への変身と控除(還付)

 また、これもインボイス制度が始まって、まだ慣れないのが免税から課税へ変身する際、適格請求書発行事業者になるためなら経過措置で期中でも変身できてしまうという点です。ゆえに、実質的には「当期に不動産買うから期中で課税事業者になって還付を受けよっと」という動機で課税事業者になる事業者が、従来なら前期中に届出を出さなければいけなかったのが、現制度では期中に適格発行事業者登録を行えば課税事業者に変身して還付を受けるということができてしまいます。これもなんとなく慣れない点です。