2023年8月号 日本で外国税額控除が可能な中国の税金


(増値税、益金不算入の場合の受取配当、経費課税の駐在員事務所は不可)

2023年 8月                        

 アメリカのニューヨークで長年会計事務所を経営されている日本人会計士の方の書籍に、私が中国関係のトピックスについて何題かを寄稿をすることになったため、先月、今月と中国の税務について執筆をしておりました。その中で、中国で日本法人が税金を支払った場合に、日本で外国税額控除の可能性があるのはどういった場合かというくくりでの整理をしましたので、今回はこちらについて解説します。中国で日本法人が中国にとっての非居住者として中国の税金を払う場合には日本の法人税法で外国税額控除の適用が考えられます。非居住法人の税金は源泉徴収の形式で納税される場合が多く、①配当の源泉徴収企業所得税、②持分譲渡の源泉徴収企業所得税、③使用料等の源泉徴収企業所得税、増値税等④利息の源泉徴収企業所得税が考えられます。そのうち、外国税額控除の可能性があるのは、②、③、④の企業所得税です。①は受取配当等の益金不算入を選択した場合は、日本で益金不算入となる部分が大半であるため外国税額控除の適用はありません。

 また、駐在員事務所の場合には、公的機関事務所などの一部を除き、駐在員事務所が日本法人の一部機関として、みなし経費課税により企業所得税、増値税を納税するケースが多いですが、その際に納税した企業所得税は日本では二重課税が生じていないと解釈されるため外国税額控除は難しいと考えられるのが一般的です。(ただし、実際所得金額方式による課税を行っている場合は、理論的には適用の余地はあると考えられますが、実務的には少ないケースと思われます)ケース別に整理すると以下の通りです。

 1.日本法人が非居住者として中国で納税する場合

 中国の法人と取引がある場合などに、支払元の中国の法人に源泉徴収をしてもらって企業所得税を納税する場合があります。

 主に以下のケースです。

①配当の企業所得税源泉徴収

 中国子会社から日本法人に配当をする場合、当該配当に対して中国で10%の企業所得税が源泉徴収されます。しかし、当該企業所得税は日本で法人税法上の受取配当の益金不算入の適用を受ける場合は、当然ながら外国税額控除の適用を受けることはできません。

②持分譲渡の企業所得税源泉徴収

 持分譲渡の譲渡益については、企業所得税10%が源泉徴収されます。当該金額は日本の法人税法上、要件に該当すれば外国税額控除の適用が可能です。なお、非居住者企業同士の譲渡でもこの源泉徴収納税は必要になりますので、注意が必要です。

③使用料等の企業所得税源泉徴収

 中国子会社から日本法人に使用料の支払いをする場合、当該使用料に対して中国で10%の企業所得税が源泉徴収されます。当該金額は日本の法人税法上、要件に該当すれば外国税額控除の適用が可能で、みなし外国税額控除で20%の適用が可能です。なお、増値税については外国税額控除の対象とはなりません。

④利息の企業所得税源泉徴収

 中国子会社から日本法人に利息の支払いをする場合、当該利息に対して中国で10%の企業所得税が源泉徴収されます。当該金額は日本の法人税法上、要件に該当すれば外国税額控除の適用が可能です。また、保証料の支払いも利息扱いとなります。

2.駐在員事務所が日本法人の一部として納税する場合

 駐在員事務所は中国で情報収集等の活動を行うのみですので、利益は発生しません。しかし、中国の税務実務では駐在員事務所に対し、経費課税方式により計算した利益があるものとみなして企業所得税を課税するケースが多くあります。しかしながら、経費課税方式により納税した企業所得税は、日本の法人税では国外所得金額が生じてないもの解釈されるため、日本での外国税額控除の適用は難しいと考えられます。