2024年9月号 役員報酬の外国税額控除と中国での役員報酬トラブル


(租税条約の確認と社員との相違。役員=董事=Director?)

2024年 9月                    

 

弊社も恥ずかしながら国際会計事務所を名乗っております関係上、個人の所得税外国税額控除に関するご相談を受ける機会も多くなっております。今回はそのなかでも役員報酬の外国税額控除について解説いたします。

1.国外所得金額(外国税額控除算式の分子)算出の必要性

 日本の居住者が他国で所得税に相当する税金を課税された場合、日本の所得税から外国で課税された所得税のうち、一定の金額を控除できることになっています。

これが外国税額控除です。具体的なケースとしては、日本に居住する方で日本の所得がある方が、外国でも給与に対して日本の所得税に相当する税金が課税されたときなどが該当します。

その場合に、外国税額控除の控除限度額を計算する算式は、ざっくりいうと

所得税額×(国外所得金額/総所得金額)

となっています。ゆえに、算式の分子の国外所得金額(つまり日本と外国で所得税の二重課税が生じている部分の所得金額)を、なんらかの形で算出する必要があります。例えば外国で給与に対して課税されている場合は、按分計算などをして国外所得金額を計算する場合もあります。これは、日本の税務当局としては外国税額控除で救済するのは、あくまで二重課税が生じる国外所得金額のみが対象と考えているためです。

2.役員報酬の場合どうなるの?租税条約をチェックして大丈夫なら国外役員報酬全額だ!(按分不要)

 外国で給与に対して課税された場合、按分が必要というのは何となく理解できますが、外国法人から役員報酬が支給されており、それに課税されていた場合はどうなるのでしょうか?例えば日本側では、非居住者に対して役員報酬を支給する場合、一律20.42%の源泉徴収が必要とされており、国外と国内を区分するような考え方は薄くなっています。この疑問には国税庁が下記の非常に良いQAを掲載してくれています。

韓国の法人から支払を受ける役員報酬に係る外国税額控除の計算|国税庁 (nta.go.jp)

 上記の通り租税条約で相手側の国(外国)での役員報酬の課税を認めている場合は、全額国外所得として取り扱ってよいと明確にしてくれています。ゆえに、実務では当該外国との租税条約を確認して、租税条約で当該外国での役員報酬の課税を認めている旨の確認がとれたら、外国で課税された役員報酬所得を按分の必要なく全額、外国税額控除の算式の分子に含めてよいことになります。これはすごく明快で良いQAだと税理士としても感謝しています。国税庁グッジョブ!

3.おまけ① 中国における役員報酬トラブル 役員=董事=Directorなの?

 ついでに中国での役員報酬に関連する税務トラブルもご紹介します。日本の役員が中国に駐在員として赴任する場合、日本で源泉徴収された20.42%の所得税について、中国での外国税額控除がうまくいかないといったことがありました。これは、役員の実質に相違があり、翻訳上はたしかに「役員=董事=Director」 ですが、実態は中国の董事は日本とちょっと違うという点にも原因があるのではと考えています。といいますのは、中国の董事は経営責任者の一人といった形で普段は実務運営にはあまり参加せず、役員報酬に相当する董事報酬についてももらうケースの方が少なく、もらっても董事会参加のための実費程度というのが一般的であるためです。ゆえに、日本の高額な役員報酬を「役員報酬だから日本でも課税されちゃうんです、日中租税条約にもそう書いてますよね?」と言っても、中国側では「董事报酬?有点儿太多了吧?不应该是工资吗?(役員報酬?高すぎますよね?給与じゃないんですか?)」となり、トラブルになってしまったという側面もあるのではと考えています。

4.おまけ② オモシロ対策 役員退任してから中国に赴任 事前調査の上、難しそうなら現在でも有用か

 ゆえに、上記の対策として以前は日本の役員を退任してから中国に赴任させるといったオモシロ対策がとられることもありました。現在は中国でも外国税額控除が以前より柔軟に運用されているような話も聞きますので、3の控除も地域によっては可能かもしれませんが、事前調査をしてみて難しそうであれば、現在でもこの対策は検討に値するかもしれません。