(日中移転価格文書のドッキング!)
2016年2月
1.従来の日本の移転価格
「移転価格」というと、海外展開する会社の税務にはつきものというイメージがありますが、日本では従来の実務ではある程度の規模以上の会社でなければあまり論点にはなりませんでした。「移転価格税制」は「価格はいくらか?」というアメリカから来た課税概念ですので、実業をやっている会社の価格設定を通常の日本の税務署の調査官が崩すのはなかなか難しいという面があるのも理由かと思われます。
2.従来の中国の移転価格
一方、中国の移転価格税務は進んでいます。同期文書という関係会社間の価格決定の説明をする文書の提出を2008年から一定の企業には義務づけています。ゆえに、「日本で同期文書を作ったことがないのに、中国では作らないといけなくなった」という日系企業が数多くあります。
3.BEPS対応による日中の接近?
ところが、ここにきて日本が一気に移転価格への取組を強めてきました。平成28年税制大綱では連結売上1,000億円以上などの要件に該当する企業の移転価格文書の義務化等が盛り込まれました。また、中国も草案ですが、従来の同期文書の内容にマスターファイル(日本親会社の情報の資料)も盛り込む計画が発表されています。日中の文書別要件は以下の通りです。なお、適用は、日本は平成28年4月1日以降開始事業年度(ローカルファイルは平成29年)、中国は2017年からの予定です。
国 | 国別報告書 | マスターファイル | ローカルファイル | 特殊事項ファイル |
日本 | 連結売上1,000億円以上 | 連結売上1,000億円以上 | 国外関連者取引50億円以上 | |
中国 | 連結売上50億元以上 | 関連者有形資産取引2億元以上、役務提供取引4千万元以上、赤字企業等の税務局が要求する企業 | 役務提供取引4千万元以下の企業 |
4.日系企業実務でのポイント 整合性を まずは見てみよう!
義務化というと身構えてしまいますが、価格はいくらか?というのが移転価格税制ですので、書類をつくるのが第一目的ではなく、適正な価格で関連会社とも取引を行うよう留意するのがまず第一歩です。また、中国で「とりあえず作成しとけ!」と内容を吟味せずに同期文書を作成している企業様も多いものと思いますが、今後日中で整合性をとる必要がありますので、まずは過去の同期文書の内容を見てみるところから初めてはいかがでしょうか。