2021年7月号 相続放棄と遺産分割ゼロの違い


(似ているようで、民法上の意味は全く異なります)

2021年7月

                          

1.「相続財産はいらない」という方は?

 相続税や遺産相続というと、「相続人間でもめる」という話が、世間的によく宣伝されているようです。確かに実務を見ていますと、もめるケースは思ったよりも多い感覚はあります。一方で、相続人のなかには、「私はあまり被相続人の面倒を見られなかったので、相続財産はいりません。そちらで良いように進めてください。」というある種清々しい対応をされる方も、少なからずいらっしゃいます。この場合、一般的に「相続放棄」という表現が使われたりしますが、法的な意味での「相続放棄」は特殊な手続きで、「相続人感の遺産分割協議で、財産を取得しないことにする」こととは意味が異なります。

2.相続放棄は特殊な民法上の手続き

 相続放棄は相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければならないことになっており、かなり特殊な手続きです。債務も引き継がなくて良いのですが、一方で、「相続人としていなかったことになる」ため、一定の場合には他の相続人の順位が繰り上がり、相続人が変わる場合があります。

3.遺産分割協議による取得財産ゼロ

 放棄と異なり、実務的に多いのはこの形です。相続放棄という手続きは行わず、相続人間で協議して、「相続財産はいらない」といった相続人の方の遺産分割をゼロにする方法です。この方法なら相続順位は変わりませんので、実務的にはこの方法がとられるケースが多いようです。ただし、債務については放棄と異なり、債権者から相続人に請求が来た場合拒めないこととなっていますので、状況に応じてどちらが最適か検討する必要があります。

4.相続税の法定相続人の数には影響なし

 なお、相続税の計算においては、相続放棄があった場合も法定相続人の数のカウントなどには影響しません。民法と相続税法の目的の違いと言えるかと思います。