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わかりやすいニュース! 2022年12月号 相続税申告 未分割の恐怖

相続税申告 未分割の恐怖

(外国人配偶者Aさんの誤算)

2022年 12月

相続税を申告する場合、相続人間で遺産分割(故人の財産をどうわけるか)が確定していれば、実際に分割した財産に基づき申告することになります。しかし、相続税の申告期限は相続発生の日(亡くなった日)から10カ月以内であるため、相続人間で意見が対立している場合、申告期限までに遺産分割がまとまらないケースがあります。その場合も相続税は申告しなければならず、その場合は様々なデメリットがあり、とくに国際相続の場合、思わぬデメリットがでてくるケースがありましたので、今回はそちらについて解説します。逆にこの辺りを研究しておくと、不利な遺産分割でも一矢報いることができるかもしれません。

 

1.未分割の場合の計算

相続税の申告期限までに相続人間で遺産分割がまとまらない場合、法定相続人が法定相続分に基づき分割したものとみなして相続税申告をおこなわなければならないこととされています。その場合、分割が成立した場合に比べ、いくつかデメリットと言えるポイントがあります。

 

2.国内相続の場合のデメリットと更正の請求の可能性

まず、国内相続の場合は、①配偶者の税額軽減、②小規模宅地の減額が使えないというのが大きなデメリットとなります。ただし、こちらは相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、3年以内に分割が行われた場合には分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に「更正の請求」を行うことで、適用後の税額による還付を受けることはできます。

 

3.国際相続の場合、プラスアルファで発生するデメリット

 国際相続の場合、もうひとつ意外なデメリットがあります。これは未分割の場合、「全ての財産を法定相続分で分割したものとして申告しなければならない」という点です。どういうことかと申しますと、例えば国際相続で法定相続人に非居住制限納税義務者(外国に一定期間以上住んでいる者等が、非居住被相続人等から財産を相続した場合等)がいる場合、分割で取得した相続財産が国外財産だけであれば日本の相続税は課税されません。しかしながら、未分割であると全相続財産のうちに国内財産があれば必ず国内財産も法定相続分は相続したものとみなして申告するため、日本の相続税が発生してしまうという不思議な現象が生じるというものです。

 

4.外国人配偶者Aさんの誤算

 例えばこんなケースが考えられます。日本人の被相続人(男性)に、実子が2人おり、実子の母親である前配偶者とは死別、新たに外国人配偶者Aさんと被相続人が再婚し、Aさんの母国で被相続人が長年暮らしていたとします。そこで、被相続人が亡くなってしまった場合、Aさんには法定相続分1/2の権利があるわけですが、実子2人とは仲が悪く遺産分割が成立しません。そこでAさんは国外財産の大半がAさんの母国にあったため、Aさんは母国の地の利を生かしてそちらの財産をすべてAさんが相続するものとして相続手続きをしてしまいました。日本の相続税については、Aさんは国内財産を相続するつもりはなかったので発生しないとタカをくくっていたら、未分割のため日本の国内財産の1/2について相続税の納税義務が発生してしまうことを後から知り、予想外の負担を強いられる結果となったというケースです。この未分割問題をみても、国際相続は各国の相続法、相続税法が重層的に絡みますのでやはり難易度が高いといえるかと思います。逆にこの辺を研究しておくと、不利な遺産分割でも一矢報いることができるかもしれません。