土地の無償返還に関する届出書の不思議
(あまり課税されない実務と、提出していない場合の不思議)
2017年10月
1.日本の法人税法 土地の無償返還に関する届出書とは?
日本の税法は、「同族法人(オーナー会社)とその株主」に対するマークが厳しいのが特徴です。同族法人は、オーナーの意のままに動かすことができるため、そこを利用した租税回避行為が行われないよう、法人税、所得税、相続税の国税三法が重層的に整備され、同族法人等を形式的に利用して節税行為を行ってもあまり税負担が変わらないようにする措置がとられています。そういった機能を持つ制度として、「権利金の認定課税」、「土地の無償返還に関する届出書」というものがあります。これは、土地を持つ地主が、権利金をもらわずに土地を貸した場合(オーナー個人の土地を借りて、同族法人が建物を建てているような場合等)、「法人が個人に権利金を支払わず、借地権を個人からタダでもらった」として、法人に借地権の贈与があったものとして、法人に受贈益課税をするという制度が、「権利金の認定課税」です。一方、「法人に借地権はなく、出ていくときも無償で地主に返します。だから権利金も払っていないのです。ゆえに受贈益課税しないでください。」的な届出が、「土地の無償返還に関する届出書」です。
2.届出書を提出して、地代を支払うのがセオリーだが?
「地主=個人、その上の建物=同族法人」というパターンは多く、かつ、権利金を支払う場合は多くないため、通常は法人が地代をある程度支払い、「土地の無償返還に関する届出書」を出すのが実務上のセオリーになっています。こうすると、法人税法上の権利金の認定課税は回避でき、かつ、個人の土地の相続税評価額は、20%の評価減ができることになっています。
3.提出し忘れたら?「良いとこどり?」 それも妙な気が・・。
ところが、悩ましいのが「本来提出すべきだったのに、提出していなかった」というケースです。その場合、法人税法上「権利金の認定課税」がされるはずなのですが、実務的には現在ではされるケースは少ないようです。(不動産市況、慣行等の変化が理由でしょうか)その場合、土地の相続税評価額はどうなるの?という疑問がありますが、「無償返還を出していない以上、借地権は法人に移転している。(認定課税しなかったのは、課税庁の勝手。理論的には移転している。)ゆえに、土地は借地権分減額をして評価する」といういわば「良いとこどり」になるという解釈があるようで、資産税の大家である税理士の先生もそういった解説をされています。ただ、やはり妙な気がしますので、いつか税制改正等で整理してもらった方が良いのではと個人的には考えています。